エッセイ教室 課題:下駄

エッセイ
エッセイ教室 課題:下駄

「 夏祭りとゲタの音 」

母の実家近くで夏祭りがあった日だった。

祖母が子供用の浴衣セットを買ってくれた。履物はゾウリではなくゲタだった。

テレビの時代劇では、下駄をはいた子供がカラコロと音をたてて歩いている。靴では絶対に出せない特別な音。自分でもあの音を立てられるだろうか? ちょっと期待した。

夕方になり、児童公園から太鼓の音が聞こえてくると、母や祖母から急き立てられ、やはり浴衣を着せられた妹と手を繋いで外に出た。

アスファルトを歩くとコンコンという音がした。

これがわたしは気にいらなかった。カランコロンという音をさせたいのに上手く音がでない。

しかし、わたしは発見してしまった。

ゲタの二枚ある板の後ろの板の角あたりで地面をける。そして前の板を下ろしながら後ろに引いて板を地面にこするようにぶつける。すると、カランコロンに近い音がするのだ。

機嫌を良くしたわたしは、繋いだ手を大きくふった。

すると後ろにいた母が「 変な歩き方をするな 」と注意してきた。板が削れてしまうから止めなさいということだ。

ゲタを履く楽しみがなくなってしまった。ちょっとしょぼくれながら歩いた。

公園に着くと、お菓子が配られていた。屋台はなかったが、やぐらが組まれて、多くのおばあちゃんたちが盆踊りを踊っていた。

子供にとっては退屈なお祭りだ。ビニール袋に詰められたお菓子をもらったらもう用はない。

それよりなにより周りを見まわすと、浴衣を着ている男の子はわたししかいない。みんな半ズボンにランニングシャツ( あえてタンクトップとは書かない )だ。

人と違うことが無性に居心地を悪くさせた。

「 もう帰りたい 」そう言ったが聞き入れられず、祖母に背中を押されて盆踊りの輪に入れられた。

いきなり乱入してきた幼き男子におばあちゃん方が満面の笑みを向ける。

さらに輪の外では、他の子がわたしを見てニヤニヤしている。

気分は死霊の盆踊りの生贄だ。わたしを取り囲んでいるのは生身の人間だが、何か得体の知れない恐ろしさを感じたものだ。踊り方も分からず、わたしは立ちすくんだ。

すると、わたしと一緒に乱舞の輪に放り込まれた妹が目の前に現れた。「 お兄ちゃん 」と呼ばれて我に返った。妹も、はた迷惑だと言わんばかりにまなじりを下げている。

わたしは、妹を助けるというミッションを自分に与えた。次の瞬間、妹の手を引いて踊りの輪を抜け出した。

すると、祖母が不満げな顔をした。わたしは、ゲタの鼻緒でこすれて指の間が痛いと訴えた。

祖母はしゃがんでわたしの足を見ると、ぺシっと叩き「 なんともないじゃん 」と言って、輪の中へわたしを押し込んだ。

ああ、なんたるスパルタ。またしても、おばあちゃんたちのいくつもの笑顔がわたしの顔を舐め回すように見ては通り過ぎていく。

そして、ゴリっという音とともに足に激痛が走った。

何が起こったのか把握できていないのに、わたしは大きな声で泣いた。

異変に気付いた母が駆けよってきた。

何があったのかというと、おばあさんの一人がわたしの足を踏んづけたのだ。大人の体重がのったゲタの板が子供の柔肌に直撃した。足の甲の皮がすりむけて血が流れだした。血は、真新しい鼻緒にはじかれて地面にこぼれ落ちた。なかなかの出血量だった。

それ以来、わたしは浴衣を着なくなった。

折角、祖母が買ってくれたのに、もったいない事をしたものだ。

でも、毎年夏になるとゲタを履いて、カラコロと音をたてて満足した。壊れないように、ほんの数回音をさせたら、それで止めて下駄箱にしまった。

後で分かった事だが、踊っていたのは近くにある介護施設に入居しているおばあさんたちだったそうだ。

祖母は、その人たちに孫くらいの子供と交流をさせたかったみたいだ。随分あとになって母から教えられた。

 

エージロー

課題は「 靴 」にしようと思っていたのですが、もっと広げて「 履物 」にしました。
ブーツ、ミュール、学校の上履き、スリッパ、などなど。
あなたの思い出がでてくる履物はなんでしょう?
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